天使の温かさを腕に抱き、森は風を奏でた。













犬夜叉の失恋(2)













「私じゃない」
は人差し指を立てて上の方をさした。
ゆっくりと指の方向に目をやる。
「!?かごめ!?」
そこにいたのは紛れもなく、かごめだった。
かごめは振り返って走り出す。
「おいかごめ!!」
「早く行けこの馬鹿。説明すればわかるさ」
が俺の身体を手で押して、半ば強引に起き上がった。
「……」
「早く行った方がいい。愛しい女は守り通せ」
「あ、あぁ…」
「早く!」
俺はに言われたままかごめを追い始めた。
少し振り返ってを見ると、
胡座をかいて乱れた長い髪を一つに整え、また離していた。
雪のように髪が舞って行く。
そんな姿から目が離せねぇ。
「かごめッ!!」
すぐに追いついて、かごめの腕を掴んだ。
そして振り返らせる。
「かごめ、あれは違ぇんだ。
あいつが頭から落ちそうになって」
「わかってるよ」
「…そうか、なら「でも嫌なの!」
かごめが俺の胸に飛び込んで来る。
「かごめ…」
そんな、かごめを抱き締める。
でも何だか違和感を感じた。






「今日はこの宿で」
そこはデカい城みたいな宿。
いつもどっから金出してんだ?
は無表情のまま俺達のあとを付いて来る。
「じゃあ女性と殿方に別れましょうか」
そう言って珊瑚とかごめ、そしてと七宝。
俺と弥勒で部屋を分ける事にした。
と言っても隣りの部屋でおまけに間には襖しか無ぇからほぼ意味がない。
「じゃあお風呂入って来ようか!」
かごめの明るい声が聞こえる。
珊瑚と七宝の賛成の声もあとから聞こえた。
「私はいい」
だがだけはそれを拒んだ。
「そう…?残念!じゃあ入って来るね!」
かごめ達の足音がどんどん小さくなって行った。
はよくわからねぇな。






夜になってかごめ達が明かりを消した。
弥勒も布団の中に入り電球の明かりを消した。
俺は何故だか眠れなくて横になったまま天井を見つめてた。
すると隣りの部屋の襖が開く音が聞こえた。
上半身を起こすと月明りでが廊下に出て行ったのが見えた。
気付かない間にそれを追ってる。
が向かったのは風呂場。
さっき入りゃあ良かったのに…





引き返そうと身体を反転させた。
だけどどうしても気になってそこから足が動かねぇ。
一瞬の魔が差して少しだけドアを開けた。
着物を脱いでいくの姿が見える。
やっぱ良くねぇと思って戻ろうとした時が髪をまとめた。
いつもその銀白の美しい髪で見えないうなじ。
白い肌。
それは女神さえも嫉妬する美しさ。
しかしその美しさに似つかわしくないものがあった。
白くて柔らかな肌の背中にムゴすぎるデケぇ傷。
右肩から左の腹まで大きく誰かに切られたような傷跡があった。
俺は部屋に戻った。
罪悪感と浮かび上がる疑問。
どうやってあんな傷で生き延びたのか。
30分くらいたってが戻って来た。
わざと達の部屋に背を向ける。
だがは部屋に入らずに外へと向かった。
何で俺はこんなにあの女の事が気になるんだ?
苛つきながらもまたを追ってしまった。
月明りに照らされた砂利の庭。
庭の真ん中で三日月を見上げるを見つけた。
後ろからゆっくりと近付いて行く。
「何か用か?」
こちらを全く見ていないのには三日月を見上げながらそう言った。
「…てめぇのせいで起きちまったんだよ」
なんて本当は寝てねぇ。
さっきの怪我が脳裏をよぎる。
「そうか…悪い事をした」
「…別に」
振り向きもせず三日月を見つめてる事が何故か気に食わねぇ。
風が吹きの長い髪が靡いて俺の頬をかすめた。
洗ったばかりだからかいい匂いがして、冷たい。
「ここにいてはまた、かごめが悲しむ。戻った方がいいんじゃない?」
「…お前は独りは平気なんだな」
「…そうだな」
やっとがゆっくりと俺の方を向いた。
あの綺麗な青い瞳でまた俺を真っ直ぐ見る。
「戻れ。かごめを守ってやれ。私は行く所がある」
「…俺も一緒に行くのはダメなのか?」
自分でも何でこんな言葉を発したのかわからない。
でも戻りたくなかった。
「……今日は戻れ。弥勒だけじゃかごめ達を全員守るのは厳しい」
「…わぁったよ」
は優しい微笑を浮かべた。
いつものクールで無表情なとは全く違う。
俺の心が波打ったような気がした。
「朝までには戻る」
はそう言うと忽然と姿を消した。
俺は部屋の前の縁側に腰かけ、庭を見つめる。





様!!」
そこは辺り木々一面の奥深い森の中。
「邪見、リン。いい子にしてた?」
そこには犬夜叉の兄である殺生丸とリン、邪見がいた。
そして、あの
「うん!ちゃんと殺生丸様の言う事聞いてたよ!」
リンはの足下に抱き付く。
「これリン!!殺生丸様に怒られるぞ!」
「だって…」
「大丈夫だよ邪見。
リンちょっと待ってて?殺生丸と話がしたい」
「はい!」





「…
あの2人とは少し離れた所にポツンと座っている殺生丸。
近付いただけでそれがだとわかったようだ。
「どこに行っていた」
「殺生丸。確か弟いたよね?」
「あれは弟とは言わん」
「それって犬夜叉でしょ?」
は座っている殺生丸の膝に座った。
そして腕を殺生丸の首に回す。
「ごめんその犬夜叉と旅する事になった」
「なに…?」
少し眉間に皺をよせてを抱き寄せる。
「まぁ少しだけ許してよ」
「止めても聞かないだろう?」
「まぁ…」
「惚れられたらどうする」
「それは無いから大丈夫」
殺生丸の大きな手がの髪を撫でる。
そしてそれを己の唇へ運ぶ。
「今日ちょっと殺生丸変」
「どういう意味だ」
「いつもより優しい」
があの半妖なんかと行動を共にするからだ」
も手を伸ばし殺生丸の髪を撫でた。
「やきもちやき」
「…だまれ」
殺生丸の唇がの唇を優しく包み込んだ。
何度も角度を変えて優しく激しく。
2人の吐息だけがあたりに響いた。







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